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【2026年版】就業規則がない会社のリスクと作成・届出の手順|社労士が解説

社労士 鈴木 貴雄

社労士 鈴木 貴雄

東京都社会保険労務士会

この記事の執筆者:社労士 鈴木 貴雄

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この記事のポイント

  • 常時10人以上の労働者を使用する事業場は、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が法律上の義務です
  • 「10人」には正社員だけでなく、パート・アルバイトも含まれます。本社・支店など、事業場ごとに数えます
  • 作成・届出・意見聴取・周知を怠ると、30万円以下の罰金の対象となる規定があります
  • 作成して終わりではなく、意見書の添付と、従業員への周知までが一連の手続きです

「従業員が増えてきたが、就業規則はまだ作っていない」「作ったことはあるが、労働基準監督署に届け出たか記憶がない」。中小企業の経営者や人事労務担当者の方から、このようなご相談をいただくことがあります。

就業規則は、労働時間・賃金・退職など、職場のルールを文書にまとめたものです。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、作成して届け出ることが労働基準法で義務付けられています。

人数の数え方や届出の手順を誤解していると、気づかないうちに法令違反の状態になっている場合があります。逆に、手順さえ押さえれば、就業規則の整備はそれほど難しいものではありません。

本記事では、作成義務の判断方法、記載しなければならない事項、作成から届出・周知までの流れ、作らなかった場合のリスクを、実務の順番に沿って解説いたします。

※本記事は2026年10月6日時点の情報に基づいています。

就業規則の作成義務:全体像

就業規則に関する主なルールを、まず一覧で確認しましょう。

項目内容根拠
作成・届出常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、行政官庁(所轄の労働基準監督署長)に届け出る義務労働基準法第89条
意見聴取作成・変更の際に、労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は労働者の過半数を代表する者)の意見を聴く義務同法第90条第1項
意見書の添付届出の際に、聴取した意見を記した書面を添付する義務同法第90条第2項
周知掲示・備え付け・書面交付などの方法で、労働者に周知する義務同法第106条第1項
変更時記載事項を変更した場合も、同様に届出が必要同法第89条

つまり、就業規則は「作る」だけでなく、意見を聴く・届け出る・周知するという3つの手続きまでそろって、はじめて法令に沿った状態になります。

「常時10人以上」の数え方

作成義務があるかどうかの分かれ目は、「常時10人以上の労働者を使用しているか」です。ここで誤解が生じやすいため、厚生労働省(労働局)が示している考え方を整理します。

「10人」には、パート・アルバイトも含まれます。数えるのは会社全体ではなく「事業場」ごとです。

数え方のポイント

  • 労働者の範囲:正社員のほか、パートタイム労働者やアルバイトなど、自社と雇用契約を結んでいるすべての人が含まれます
  • 派遣労働者:派遣先の労働者には含まれません
  • 「常時」の意味:一時的に10人未満になることがあっても、常態として10人以上であれば作成義務があります
  • 事業場単位:本社、支店、営業所などがそれぞれ1つの事業場となり、事業場ごとの人数で判断します

たとえば、正社員が6人、パート・アルバイトが5人いる事業場は、合計11人となり、作成義務の対象です。「パートは数えない」と考えていると、人数の判断を誤ってしまいます。

なお、複数の事業場がある会社では、1つの事業場が10人未満であっても、他の事業場が10人以上であれば、その事業場については作成と届出が必要です。

就業規則がない・届出していない場合のリスク

作成義務があるのに、就業規則を作成していない(または届け出ていない)場合、どのようなリスクがあるのでしょうか。

① 罰則の対象になる

労働基準法第120条は、第89条(作成・届出)、第90条第1項(意見聴取)、第91条(減給制裁の制限)、第106条(周知)などの規定に違反した者を「30万円以下の罰金」に処すると定めています。

実際に罰金が科されるかどうかは個別の状況によりますが、法令に定められた義務ですので、指摘を受ける前に自主的に整えておくことが望ましいといえます。

② 労働条件の根拠が不明確になる

労働契約法第7条は、合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合、労働契約の内容はその就業規則で定める労働条件によると定めています。

就業規則があり、きちんと周知されていれば、会社全体の労働条件の「土台」として機能します。反対に、規則が整っていないと、労働時間・休日・賃金の計算方法・退職の手続きなどを、従業員ごとの口頭の約束や慣行に頼ることになり、後から「聞いていない」「言った」の食い違いが生じやすくなります。

③ 就業規則を下回る労働契約は無効になる

就業規則を作ったあとは、その基準が「最低ライン」になります。労働契約法第12条により、就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分が無効となり、就業規則の基準が適用されます。

個別に有利でない条件で契約していても、就業規則より低い部分は効力が認められません。就業規則の内容は、慎重に検討して決める必要があります。

就業規則に記載しなければならない事項

就業規則には、労働基準法第89条で定められた記載事項があります。制度の有無にかかわらず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)と、制度を設ける場合に記載する事項(相対的必要記載事項)に分かれます。

区分記載事項
絶対的必要記載事項
(制度の有無にかかわらず記載)
始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交替制の場合の就業時転換に関する事項
賃金の決定・計算・支払の方法、賃金の締切り・支払の時期、昇給に関する事項
退職に関する事項(解雇の事由を含む)
相対的必要記載事項
(制度を設ける場合に記載)
退職手当(適用される労働者の範囲、決定・計算・支払の方法、支払時期)
臨時の賃金等(賞与など)、最低賃金額に関する事項
食費・作業用品などを労働者に負担させる定め
安全衛生、職業訓練、災害補償・業務外の傷病扶助に関する定め
表彰・制裁(懲戒)の種類と程度
その他、事業場の労働者すべてに適用される定め

実務では、これらの記載事項に加えて、採用・服務規律・休職・育児介護休業・ハラスメント防止などの規定を盛り込み、会社の実情に合った内容に整えることが重要です。

パート・有期社員の取り扱い

就業規則は、その事業場で働くすべての労働者についての定めが必要です。パートタイム労働者などに別の就業規則(パート用就業規則)を作る場合は、正社員用の就業規則に「パート社員には適用しない」旨と、別規則があることを明記しておく必要があります。

作成から届出・周知までの流れ

実際の手続きは、次の6ステップで進めます。

ステップ内容ポイント
① 現状把握労働時間・休日・賃金・退職などの現在の運用を書き出す実態と規程のズレを防ぐために最初に行う
② 原案作成厚生労働省のモデル就業規則などを参考に原案を作る自社の実情に合わせて修正する
③ 法令との確認労働基準法などの基準を下回っていないか確認する必要に応じて専門家に確認する
④ 意見聴取労働者の過半数代表者(または労働組合)の意見を聴く意見を記した書面(意見書)をもらう
⑤ 届出就業規則と意見書を、所轄の労働基準監督署長に提出する変更した場合も同様に届け出る
⑥ 周知従業員がいつでも見られる状態にする周知までが義務

意見聴取と意見書のポイント

届出には、労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は労働者の過半数を代表する者)の意見を記し、その者の署名または記名押印がある書面(意見書)を添付します。

法律上求められているのは、意見を「聴く」ことです。意見書には、次のように記載するのが一般的です。

意見書
令和〇年〇月〇日
〇〇株式会社 代表取締役 〇〇〇〇 殿
 令和〇年〇月〇日付で提出のあった就業規則(変更)案について、下記のとおり意見を述べます。
 記
 意見:〇〇(例:異議はありません)
 労働者代表 職名:〇〇 氏名:〇〇〇〇 印

意見書は、形式だけを整えればよいものではありません。過半数代表者は従業員の意思を反映した方法で選ぶことが大切です。選出方法に不安がある場合は、事前にご相談ください。

周知の方法

周知は、労働基準法第106条と同法施行規則により、次のいずれかの方法で行います。

  • 各作業場の見やすい場所に掲示する、または備え付ける
  • 書面で労働者に交付する
  • 電子データとして記録し、各作業場に労働者がいつでも内容を確認できる機器を設置する

「書類を作って社長の机にしまってある」状態は、周知にあたりません。従業員が見たいときに見られるかという視点で確認しましょう。電子データで周知する場合も、パスワードが共有されていない、閲覧できる端末がないなど、実際には見られない環境では周知として不十分になるおそれがあります。

計算例:減給の制裁には上限があります

就業規則に懲戒処分として「減給」を定める場合、労働基準法第91条により、1回の額は平均賃金の1日分の半額まで、総額は一賃金支払期(通常は1か月)における賃金総額の10分の1までという上限があります。

仮に、平均賃金の1日分が10,000円、1か月の賃金総額が300,000円の従業員の場合は、次のようになります。

上限の種類計算上限額
1回の減給額10,000円 × 1/25,000円
1賃金支払期の総額300,000円 × 1/1030,000円

この例では、1回の減給は5,000円まで、同じ月に複数回の減給があっても合計30,000円までとなります。就業規則にこの上限を超える定めを置くことはできません。なお、平均賃金の算定方法は個別の状況により異なりますので、実際の運用の際は専門家にご確認ください。

企業が取り組むべき対応チェックリスト

優先度対応内容時期の目安
最優先事業場ごとの労働者数(パート・アルバイトを含む)を数え、作成義務の有無を確認する今すぐ
最優先就業規則が「ある」場合、労働基準監督署へ届出済みか、控えを確認する今すぐ
高労働時間・休日・賃金・退職の実態を書き出す1か月以内を目安に
高従業員の過半数代表者を適切な方法で選ぶ原案ができ次第
高意見書を添えて届出し、従業員への周知方法を決める届出と同時期に
中パート・有期社員用の規則や、育児介護休業・ハラスメント防止などの規程も整える計画的に
中法改正や制度変更のたびに、就業規則を見直す年に1回の点検を目安に

特に、「過去に作ったきり、一度も見直していない」就業規則は、現在の法令や実際の運用と合っていないことがあります。この機会に、内容と実態を照らし合わせてみてください。

よくあるご質問

Q. 従業員が10人未満の会社は、就業規則を作らなくてもよいのですか?

A. 労働基準法上、作成と届出の義務があるのは常時10人以上の労働者を使用する事業場です。10人未満の場合は、法律上の作成義務はありません。ただし、労働条件や職場のルールを文書で明確にしておくことは、トラブルの予防に役立ちます。会社の状況に応じて、作成をご検討ください。

Q. 厚生労働省のモデル就業規則をそのまま使ってもよいですか?

A. 厚生労働省は、事業場の実情に応じて作成する際の参考として、モデル就業規則(令和7年12月版)を公表しています。条文例や解説が付いており、たたき台として有用です。ただし、会社ごとに労働時間制度や賃金体系は異なりますので、そのまま使うのではなく、自社の実態に合わせて修正することが前提となります。個別の判断はケースによって異なりますので、専門家へのご相談をおすすめいたします。

Q. 就業規則を変更したときも、届出は必要ですか?

A. はい。労働基準法第89条は、記載事項を変更した場合も、作成時と同様に届け出ることを求めています。変更の際も、過半数代表者の意見を聴き、意見書を添付して届け出ます。変更後の内容は、あらためて従業員に周知してください。

Q. 従業員代表が決まらず、意見書がもらえない場合はどうすればよいですか?

A. 意見書は、届出の際に添付が必要な書面です。代表者が決まらない場合や、意見書に署名してもらえない場合の取り扱いは、個別の事情により異なります。無理に形式を整えるのではなく、まずは選出方法や進め方についてご相談ください。

まとめ

  • 常時10人以上の労働者を使用する事業場は、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務(パート・アルバイトも人数に含み、事業場ごとに判断)
  • 作成・届出・意見聴取・周知を怠ると、30万円以下の罰金の対象となる規定がある
  • 始業・終業時刻、休憩、休日、休暇、賃金、退職(解雇の事由を含む)は、制度の有無にかかわらず記載しなければならない事項
  • 届出には過半数代表者の意見書が必要。作成後は、従業員がいつでも見られる方法で周知する
  • 就業規則を下回る労働契約の部分は無効となるため、内容は自社の実態に合わせて慎重に決める

就業規則は、会社と従業員の双方を守る「職場のルールブック」です。まずは人数の確認と、届出の有無の確認から始めてみてはいかがでしょうか。

制度の詳細や自社での対応についてご不明な点がございましたら、カインド社労士事務所までお気軽にご相談ください。

この件のご相談は、初回無料です(オンライン・出張相談にも対応しています)

自社の場合はどう対応すべきか、就業規則や手続きの見直しが必要かなど、お気軽にご相談ください。

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参考資料