公開日: 2026.11.03
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【2026年版】労働条件明示の「変更の範囲」と就業規則の整合|社労士が解説

社労士 鈴木 貴雄

社労士 鈴木 貴雄

東京都社会保険労務士会

この記事の執筆者:社労士 鈴木 貴雄

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【2026年版】労働条件明示の「変更の範囲」と就業規則の整合|社労士が解説

令和6年4月から、労働契約を結ぶときに就業場所・業務の「変更の範囲」などを明示することが義務になりました。通知書だけを直して、就業規則の配置転換やテレワークの規定と食い違ったままになっている会社は少なくありません。この記事では、見落としやすい整合のポイントと放置した場合のリスクを解説いたします。

この記事のポイント

  • 令和6年4月1日から、すべての労働契約の締結時と有期契約の更新時に、就業場所・業務の「変更の範囲」の明示が必要です
  • 有期社員には、更新上限の有無と内容、無期転換申込機会、無期転換後の労働条件の明示も加わりました
  • 通知書の「変更の範囲」と、就業規則の配転・テレワーク・有期社員の規定が合っているかが見落とされがちです
  • 職種・勤務地を限定した合意があると、本人の同意なく配置転換を命じられないとした最高裁判決もあり、書き方の影響は小さくありません

労働条件の明示ルールは、労働基準法施行規則第5条と「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(いわゆる雇止め告示)の改正により、令和6年4月1日から変わっています。

多くの会社では、改正にあわせて労働条件通知書のひな形を差し替えました。一方で、通知書の土台となる就業規則は改正前のまま、というケースがよく見られます。通知書と就業規則の内容がずれていると、配置転換や契約更新の場面で、会社の説明が通らなくなるおそれがあります。

本記事では、改正の内容をあらためて整理したうえで、就業規則との整合で確認しておきたい点と、自社で点検する手順を解説いたします。

※本記事は2026年11月3日時点の情報に基づいています。

労働条件明示ルールの変更:4つの追加事項

令和6年4月1日から追加された明示事項は、次の4つです。

追加された明示事項対象明示のタイミング
① 就業場所・業務の変更の範囲すべての労働者(正社員・パート・有期社員など)労働契約の締結時、有期契約の更新時
② 更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容有期社員有期契約の締結時・更新時
③ 無期転換申込機会有期社員無期転換申込権が発生する契約更新のたび
④ 無期転換後の労働条件有期社員無期転換申込権が発生する契約更新のたび

あわせて、次のルールも設けられました。

  • 最初の契約の締結より後に、更新上限を新しく設ける・短くする場合は、あらかじめその理由を本人に説明すること
  • 無期転換後の労働条件を決めるにあたり、正社員等とのバランスを考慮した事項について、有期社員に説明するよう努めること

なお、無期転換ルールとは、同じ会社との間で有期契約が更新されて通算5年を超えたとき、本人の申込みにより期間の定めのない契約(無期契約)に転換される制度です(労働契約法第18条)。

労働条件の明示が必要になる3つのタイミング(契約締結時・有期契約の更新時・無期転換申込権の発生時)

「変更の範囲」とは何か

「変更の範囲」とは、将来の配置転換などによって変わり得る就業場所・業務の範囲のことです。雇い入れ直後の勤務地や仕事内容だけでなく、その契約の期間中に会社が命じる可能性のある範囲まで示す必要があります。

そのため、正社員のように期間の定めがない契約では、定年までの間に予定されている範囲を示すことになります。有期社員であれば、その契約期間中の範囲です。

通知書に書いた「変更の範囲」は、就業規則で定めた配置転換・異動・テレワークのルールと一致している必要があります。通知書だけを広く書いても、就業規則に根拠がなければ、会社の命令の裏付けとして弱くなります。

明示は書面の交付が原則です。本人が希望した場合は、FAXや電子メール・SNSなどによる方法も認められています。

就業規則との整合で見落としやすい4つのポイント

通知書を新しい様式に替えただけでは、次のような食い違いが残っていることがあります。

1. 配置転換・転勤の規定

就業規則に「業務の都合により、勤務場所または職務の変更を命じることがある」といった規定があるのに、通知書では勤務地や業務を狭く限定して書いているケースです。反対に、地域限定・職務限定で採用した社員の通知書が、全社共通の広い書き方のままになっているケースもあります。

どちらも、実際に異動を命じる段階になって「どちらが本人との約束なのか」が争点になりかねません。

2. テレワークの規定

厚生労働省のテレワーク総合ポータルサイトでは、就業場所に変更がある場合はテレワークを行う場所が含まれるよう明示が必要であり、その場合はテレワーク規程など就業規則上の規定が必要だと解説されています。

在宅勤務を運用しているのに、テレワーク規程がない、または通知書に反映されていないという会社は、通知書の記載の根拠が欠けた状態になっている可能性があります。

3. 有期社員の更新上限

契約社員規程などに「通算○年を上限とする」と定めているのに、通知書に更新上限の記載がない、または規程と違う年数が書かれているケースです。上限をあとから設ける・短くする場合は、事前の理由説明も必要になります。

4. 無期転換後の労働条件

無期転換申込権が発生する更新時には、転換後の労働条件も明示しなければなりません。ところが、無期転換した社員にどの規程(正社員の就業規則か、契約社員規程か)を適用するのかが決まっていない会社では、明示する内容そのものが定まりません。

放置した場合のリスクと最高裁判決

通知書と就業規則のずれを放置した場合に考えられるリスクは、次のとおりです。

通知書と就業規則のずれを放置した場合の4つのリスク

明示義務違反の罰則

労働条件の明示義務(労働基準法第15条第1項)に違反した場合は、30万円以下の罰金の対象となります(同法第120条)。追加された明示事項もこの義務に含まれます。

職種限定の合意と配置転換(最高裁令和6年4月26日判決)

最高裁判所は令和6年4月26日、技術職として採用された労働者について職種を限定する合意があった事案で、使用者は、本人の同意なく、その合意に反する配置転換を命じる権限を有しないと判断しました(滋賀県社会福祉協議会事件)。

この事案では、書面で明確に約束していなくても、採用の経緯などから黙示の職種限定合意が認められています。通知書の「変更の範囲」をどう書くか、就業規則の配転規定とどう合わせるかは、将来の人事異動の可否に直結する問題といえます。

就業規則の配転・テレワーク・有期社員の規定を、明示ルールとあわせて点検したい場合は、就業規則の改定・見直しのご案内もご覧ください。

自社の通知書と就業規則を点検する4つのステップ(記入例つき)

整合を確認するには、次の順番で現状を棚卸しするのが効果的です。

通知書と就業規則の整合を点検する4つのステップ

ステップ1:雇用区分ごとに通知書のひな形を集める

正社員、地域・職務限定の社員、契約社員、パート・アルバイトなど、実際に使っているひな形をすべて集めます。部署や店舗ごとに独自の様式を使っていないかも確認します。

ステップ2:対応する就業規則・規程を並べる

各区分に適用される就業規則、契約社員規程、パートタイマー規程、テレワーク規程などを並べ、配転・異動・更新・無期転換の規定を抜き出します。

ステップ3:項目ごとに一致しているかを確認する

「変更の範囲」「更新上限」「無期転換後の労働条件」の3項目について、通知書と規程の記載を見比べます。実際の運用(在宅勤務の有無、過去の異動の実績など)とも照らし合わせることがポイントです。

ステップ4:ずれの解消方針を決める

ずれが見つかった場合は、通知書と規程のどちらに合わせるかを決めます。常時10人以上の事業場で就業規則を変更する場合は、従業員代表の意見聴取や届出、周知の手続きが必要になるため、計画的に進めます。

点検結果の記入例は次のとおりです(あくまで一例であり、実際の判断は各社の制度や実態によって異なります)。

雇用区分点検項目通知書就業規則・規程点検結果
正社員就業場所の変更の範囲本社のみと記載全事業所への転勤規定あり食い違い → 要検討
正社員テレワーク記載なし規程なし(在宅勤務は運用中)規程と通知書の両方が未整備 → 要検討
契約社員更新上限記載なし通算5年を上限と規定明示漏れ → 要対応
契約社員無期転換後の労働条件記載なし適用する規程が未定規程の整備から → 要検討
パート業務の変更の範囲店舗業務全般と記載店舗内の業務変更の規定ありおおむね一致

企業が取り組むべき対応チェックリスト

優先度対応内容時期の目安
最優先現在使っている通知書のひな形に、4つの追加事項が入っているか確認するすぐに
最優先近く更新を迎える有期社員について、更新上限・無期転換の明示内容を確認する次回の更新前
高通知書の「変更の範囲」と就業規則の配転・異動規定を照合する早めに
高在宅勤務を運用している場合、テレワーク規程と通知書の記載を確認する早めに
中無期転換後に適用する規程と労働条件を決めておく計画的に
中就業規則の変更が必要な場合、意見聴取・届出・周知の段取りを決める計画的に

特に、通算5年が近い有期社員がいる場合は、無期転換申込権が発生する更新時の明示が必要になるため、早めの確認をおすすめいたします。

よくあるご質問

Q. 正社員にも「変更の範囲」の明示が必要ですか?

A. はい。変更の範囲の明示は、有期社員だけでなく、すべての労働契約の締結時が対象です。正社員の場合は、定年までの間に予定されている範囲を示すことになります。

Q. 変更の範囲を広く書いておけば、どこへでも異動させられますか?

A. 通知書の記載だけで判断されるものではありません。就業規則の規定、採用時の説明、実際の運用などから職種や勤務地の限定合意が認められれば、本人の同意なく合意に反する配置転換は命じられないとした最高裁判決があります。個別の判断はケースによって異なりますので、専門家へのご相談をおすすめいたします。

Q. 有期社員の契約を更新するときも、毎回明示が必要ですか?

A. はい。変更の範囲と更新上限の有無・内容は、有期契約の更新のたびに明示が必要です。さらに、無期転換申込権が発生する更新時には、無期転換申込機会と転換後の労働条件も明示します。

まとめ

  • 令和6年4月1日から、就業場所・業務の「変更の範囲」の明示が、すべての労働契約の締結時と有期契約の更新時に必要
  • 有期社員には、更新上限、無期転換申込機会、無期転換後の労働条件の明示も追加
  • 明示義務違反は30万円以下の罰金の対象
  • 通知書と、就業規則の配転・テレワーク・有期社員の規定が一致しているかの点検が重要
  • 職種限定の合意があれば、本人の同意なく合意に反する配置転換は命じられないとする最高裁判決(令和6年4月26日)がある

明示ルールへの対応は、通知書の差し替えで終わりではありません。通知書と就業規則をセットで見直すことで、異動や契約更新の場面でも、会社として一貫した説明ができるようになります。あわせて、パート・有期社員の労働条件通知書の改正(2026年10月施行)も、まだの場合はご確認ください。

制度の詳細や自社での対応についてご不明な点がございましたら、カインド社労士事務所までお気軽にご相談ください。

この件のご相談は、初回無料です(オンライン・出張相談にも対応しています)

自社の場合はどう対応すべきか、就業規則や手続きの見直しが必要かなど、お気軽にご相談ください。

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